毎年多くの登山者が訪れる、日本が世界に誇る最高峰、富士山。その壮大な景色と達成感の裏側には、登山者の安全を陰で支える数々の工夫が凝らされています。特に、森林限界を超え、岩肌がむき出しになる9合目以上の過酷な環境では、ささいな油断が大きな事故につながりかねません。今回は、そんな富士山の頂き付近で、くい丸は登山者の命を守る転落防止柵として活躍しています。

過酷な環境だからこそ活きる、「くい丸」の強さ
富士山の登山道には、転落防止用のロープ柵が設置されています。この柵を支えているのが、実は「くい丸」なのです。一見するとただの鉄の杭ですが、ここには富士山の特殊な環境を克服するための技術が詰まっています。
富士山の山頂付近は、火山礫や溶岩が固まった、硬く石混じりの地面が広がっています。このような地面に通常の杭を打ち込むのは至難の業です。
しかし、「くい丸」は先端にハガネ(鋼)製の特殊な尖端が溶接されており、硬い岩盤にも負けずに力強く打ち込むことができます。これにより、不安定な足場で頼りになる頑丈なロープ柵の設置が可能になるのです。
軽さと強度の両立
特筆すべきは、富士山で採用されている「くい丸」が、シリーズの中で最も細く軽い直径27.2mmのモデルである点です。これには明確な理由があります。
ご存知の通り、富士山の高所へ資材を運ぶ手段は限られており、多くは人の手で担ぎ上げられます。標高が上がるにつれて空気は薄くなり、荷物の重さは想像以上に体に負担をかけます。資材の選定において「軽量であること」は、安全性や作業効率に直結する非常に重要な要素なのです。
一方で、ただ軽ければ良いというわけではありません。登山者の全体重がかかる可能性のある安全柵ですから、十分な強度が不可欠です。ここで、「くい丸」が中空の鋼管パイプでできているという点が大きなメリットをもたらします。
打ち込みやすさから、鉄筋杭のように細い杭も使用されていますが、同じ重量の鉄筋(無垢の鉄棒)と比較した場合、パイプ構造は「曲げモーメント」と呼ばれる、曲げようとする力に対して格段に強いという物理的な特性があります。つまり、「くい丸」は鉄筋杭とほぼ同じ重さでありながら、横からの力に対して曲がりにくく、またパイプの表面積の広さから抜けにくいという、非常に優れた性能を発揮するのです。
まさに、軽量化と強度の維持という、高所での施工における二律背反の課題を解決する最適な選択と言えるでしょう。
ロープフックも使われています
ロープを張るために、くい丸システムズのロープフックも採用されています。自由な高さにロープをしっかりと張ることができるので、安全性がさらに高まります。また、錆に強いドブメッキ仕上げなので、頻繁に更新できない場所にも適しています。
伝統と革新が生み出す、富士山の安全
富士山では、より安全な登山道整備をの中で、「くい丸」のような新しい技術が積極的に導入されています。
先端の強度、パイプ構造による曲げへの耐性、そして軽量性。これらの特長が、富士山という日本で最も過酷な環境の一つで認められ、多くの登山者の安全確保に貢献しています。
次に富士山に登る機会があれば、ぜひ足元のロープ柵を支える杭にも注目してみてください。そこには、日本のものづくりの技術が詰まっています。

