
2025年12月12日に、第3次担い手3法が全面施行されました。今回の改正は、単なる制度変更というよりも、建設業の構造そのものに関わる大きな転換点といえます。
建設業就業者数は、ピーク時の685万人(平成9年)から479万人(令和4年)へと減少しています。全就労者に占める割合も10.4%から7.1%へと低下しました。
また、技能者の高齢化も進んでおり、55歳以上が36.6%を占める一方、29歳以下は11.6%にとどまっています。賃金面でも、平均年収は約432万円と、全産業平均508万円を下回る状況が続いています。
こうした背景のもとで打ち出されたのが、労務費の相場の見える化とそれに基づいた見積もりを推進する新しいルールです。法が求める姿は、労務単価を引き下げて競争する時代ではなく、適正な労務費を前提とし、その上で「生産性で競う時代」への移行であると言えます 。
第1章 三法全面施行が仮設工にもたらす影響
1-1 第3次担い手3法(改正担い手3法)とは何か
単価を削って受注するのではなく、歩掛を改善して競争する
第3次担い手3法は、「建設業法」「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)」の改正をまとめたものです。目的は明確で、担い手の確保、処遇改善、働き方改革、そして生産性向上を目指しています。
工事費用は「(労務単価 × 歩掛) + 材料資材費」で決まります。材料費が高騰し、労務単価の引き下げ競争が事実上封じられた今、コスト競争の唯一の変数は「歩掛」となりました 。
1-2 公共工事設計労務単価の現状
熟練仮設工の不足が賃金上場率に表れている
公共工事設計労務単価の現状
令和6年3月から適用されている公共工事設計労務単価では、全国平均が大きく上昇していることが分かります。
- 全職種平均:23,600円(前年比 +5.9%)
- 主要12職種平均:22,100円(前年比 +6.2%)
職種別で見ても、
- とび工:28,461円(前年比 +6.2%)
- 鉄筋工:28,352円(前年比 +6.6%)
- 型わく工:28,891円(前年比 +6.6%)
- 普通作業員:21,818円(前年比 +5.5%)
- 特殊作業員:25,598円(前年比 +6.2%)
と、いずれも高い上昇率となっています。
第2章 国が描く「生産性向上」のシナリオ
国は建設現場の省人化と生産性向上のため、強力な施策を打ち出しています。その柱となるのが「i-Construction 2.0」と「ICTの活用」です。
- i-Construction 2.0の推進:2040年までに建設現場の省人化3割、生産性向上1.5倍を目指し、自動化・省力化を加速させます。
- ICTによる現場管理の効率化:遠隔通信やカメラ映像を用いた現場技術者の専任義務の合理化(兼任の許容)、タブレットを用いた元請・下請間のデータ共有などが努力義務化されました。
このように、国は「IT化」と「自動化」によって、管理業務と本体工事の効率を極限まで高めるよう求めています。
第3章 仮設工における「IT化・自動化」の限界
しかし、こうした「スマートな生産性向上」をそのまま仮設工に当てはめることには大きな困難が伴います。仮設工、特に仮囲いや足場の設置は、本体工事の前段となる「現場合わせ」の余地が非常に大きい工程だからです。
管理側のIT化が進んでも、現場で杭を打ち、パネルを建てるという物理的な作業自体が自動化されるわけではありません。特に工事期間が短く、場所が刻々と変化する仮設工事では、大規模な自動化重機の導入はコストに見合わず、結局は「属人的な人力作業」が残ってしまいます。IT化だけでは解決できない「物理的な歩掛の壁」がそこに存在します。
第4章 標準歩掛に潜む小規模現場の収益リスク
小規模仮設工は標準歩掛が逆にネックになる事も
公共工事の積算基準である『公共建築工事標準単価積算基準(令和7年12月改定)』では、高さ3.0mの仮囲い設置における標準歩掛は1m当たり普通作業員「0.24人」です。しかし、現場の実態としては「この単価では採算が合わない」という声が根強くあります。
特に小規模現場では、大規模仮設工では一般的なエアブレーカーのコストを嫌い、杭単管の打設をハンマーによる「手打ち」で計画しがちです。しかし、これこそが不採算の入り口となります。三法時代において労務単価を削れない以上、この「歩掛の不整合」を工法で解決しなければなりません。
第5章 杭単管(捨てパイプ)打ち込み作業「4倍速」:鋼製万能杭の活用
杭単管+手打ちを鋼製万能杭+機械打ちにする事で歩掛向上
5-1 注目される鋼製万能杭
そこで歩掛向上の鍵として注目されるのが鋼製万能杭(くい丸)です。くい丸はNETIS登録実績品でもあることから、大規模な仮設工ではすでに利活用が進んでいます。しかし、小規模工においては、第4章で触れた理由により利用拡大の余地があるのが現状です。
5-2 N値3でのデータ比較
仮囲い工事の中で最も人工を消費するのが杭単管(捨てパイプ)の打設工程です。一例として、推定N値3程度の地盤における、杭1本当たりの打設時間を鋼製万能杭(くい丸)比較するとその差は歴然です。
- 従来の手打ち(ハンマー):1本あたり約32秒
- 機械化(電動ブレーカー+鋼製万能杭):1本あたり8秒
地盤によって打設スピードは変わりますが、基本的には地盤条件が悪くなるほど手打ちと機械打ちの時間差は大きく開きます。また身体にかかる負担(=疲労)が減る事で、1日トータルでの打設数にも大きく影響します。
5-2-1. 公共建築工事積算基準の「仮囲い歩掛」を読み解く
『公共建築工事標準単価積算基準』(国土交通省)における仮囲い(高さ3.0m)の歩掛は、1m当たり普通作業員 0.24人(設置0.156人、撤去0.084人)と定められています。
5-2-2. 杭単管(捨てパイプ)打ち工程が「4倍速」になる鋼製万能杭のインパクト
上記の通り、従来工法に対する鋼製万能杭を用いた「4倍速」の施工は、仮に杭単管打ちが設置工程の約40%を占めると仮定した場合、設置歩掛(0.156人)の約30%以上を削減できる計算となり、法が求める「適正な労務費」を確保しつつ、企業の収益性を高める強力な原資となります。
5-3 「捨てパイプ」という呼称が招く革新の遅れ
また、「捨てパイプ」や「杭単管」という表記は、単管を「使い捨てる」という古い慣行を想起させ、機械化を阻む要因となります。対して、特殊な両端構造を持つ「鋼製万能杭(くい丸)」は、機械打設を前提に設計されています。
加えて、捨てパイプはその名の通り使用後に廃棄されており、中に土が詰まった部分はリサイクルに回らず廃棄物処理施設に埋め立て処分されます。これは、近年の廃棄物を出さない持続可能な建設業という潮流にも反します。
- 地盤適応力:アスファルト舗装面や石混じりの硬質地盤でも、先行穴掘りなしで貫通可能。
- 再利用性:機械打設・引抜に耐える強度があり、損料計算による「使い回し」が可能です。材料コスト削減と、大手ゼネコンが目指す「建設廃棄物の最終処分率ゼロ(Zero Waste)」に寄与します。
第6章 設計・発注段階からの「歩掛向上」への提言
発注段階でのケアが大切
公共工事の設計者や発注者は、もはや「手打ち・使い捨て」を前提とした仕様を放置すべきではありません。仕様書に「鋼製万能杭(機械打設に対応可能な鋼製杭)」と明記し、小規模仮設工であっても施工側に機械化を促すことが必要です。
杭打ち工程のわずか「24秒」の短縮が、積み重なれば現場全体の歩掛を劇的に改善し、建設業を「選ばれる産業」へと進化させる決定打となるのです。これこそが、三法時代に求められる真の「生産性向上」の姿です。
参考リンク
鋼製万能杭(くい丸)

仮設工事の定番「くい丸」。1.5mはリース資材としても多く採用されています。
参考:打ち込み時間比較動画