くい丸の強度を徹底解説!支持力の目安まで大公開【店長直伝】
くい丸って打つのは簡単そうだけど、どのくらいの強さがあるの?ツルツルの表面だし羽根が付いている訳でもないし簡単に抜けちゃうんじゃない?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。 この記事では、くい丸の強度を「引き抜き抵抗力」「押し込み抵抗力」「水平力」の3種類に分け、それぞれの意味や目安、さらに強度が十分かどうかを判断する方法を解説します。設置物への荷重計算や地盤調査の重要性、よくある誤解、強度不足への対処法まで網羅的に解説することで、くい丸の強度を正しく理解し、適切な設計・施工を実現するための基礎知識を提供します。この記事を読めば、くい丸の強度に関する疑問が解消し、安心して施工を進められるようになるでしょう。
1. くい丸とは?
くい丸は、ホームセンターでも見かける「単管パイプ」をベースにした鋼管杭で、両端を特殊加工した打込み杭です。アスファルトにも打ち込めるほどの高い施工性と、1トンを超えることもある優れた支持力を兼ね備えています。さらに、リユース可能でSDG’sにも配慮。農業や建築土木、太陽光、エクステリアなど幅広い分野で使われ、東海道新幹線から富士山まで、累計販売本数は1,000万本を超えています。
1.1 くい丸の種類と特徴
くい丸は、ホームセンターで販売されている「単管」と同じ太さなど、様々な太さと長さの組み合わせで展開されています。業種、用途や地盤に合わせて最適なタイプを選択できます。
■当店通常取り扱いサイズとその用途
直径 (mm) |
板厚 (mm) |
長さ (m) |
適用例 |
---|---|---|---|
27.2 | 1.9 | 0.3〜2.0 | 比較的軽量なものの設置、軟弱地盤での使用 |
31.8 | 1.6 | 0.4〜2.0 | 農業用支柱、園芸用支柱、丁張り、簡易フェンスなど |
34.0 | 2.3 | 手摺り、エクステリアなど | |
38.1 | 0.5〜2.0 | ビニールハウスの支柱など | |
42.7 | 2.4 | 仮設足場の転倒防止など | |
48.6 | 仮設足場の基礎、太陽光発電設備の基礎、転落防止柵の支柱、土留め板の支柱など | ||
60.5 | 2.3 | 0.6〜2.0 | 土留め板の支柱、大型仮設テントの基礎など |
※長さ2m以上も豊富な実績があります。詳しくはお問い合わせ下さい。
肉厚が記載されている事でも分かる通り、くい丸は鉄パイプ製です。パイプのような中空形状は軽量さと曲げに対する強さを同時に実現する理想的な形状です。
詳しいラインアップや選び方については「くい丸のサイズ選びで失敗しない!長さ・直径・メッキを徹底解説【店長直伝】」をご覧下さい。
2. くい丸に求められる強度は主に3種類
くい丸は、地中に打設することで土との摩擦力により構造物を支持する「摩擦杭」に分類されます。これはくい丸に限らず、長さが数メートル程度の打ち込み式やねじ込み式の杭にも共通して言える特性です。
くい丸の構造的な強度を検討するうえで最も重要なのは、設置物にかかる荷重の種類と大きさを正確に把握することです。くい丸に求められる強度は、主に以下の3種類に大別されます。
2.1 引き抜き抵抗力
引き抜き抵抗力とは、地中に埋設されたくい丸が、外力によって上方へ引き抜かれようとする力に抵抗する能力を指します。たとえば、太陽光パネルや看板の基礎として使用される場合、風圧などにより設置物が浮き上がろうとする際に、くい丸には引き抜き方向の力が作用します。このような力に対抗するためには、十分な引き抜き抵抗力が必要です。
この抵抗力は、くい丸の径、根入れ長(打ち込み深さ)により決まる表面積、さらに地盤の性状(締まり具合や土質)に大きく依存します。
2.2 押し込み抵抗力
押し込み抵抗力とは、くい丸に対して下方向、すなわち地中へさらに押し込もうとする力に抵抗する能力を意味します。たとえば、太陽光パネルの自重や積雪荷重によって、くい丸には押し込み方向の力が作用します。
一般的に、杭の設計においては、杭先端による支持力(先端支持力)も作用するため、押し込み抵抗力は引き抜き抵抗力よりも大きくなる傾向があります。しかし、くい丸のように浅い地層へ施工される杭では、先端支持力にばらつきが大きいため、安全側の設計として「押し込み抵抗力=引き抜き抵抗力」とみなすことが推奨されます。つまり、先端支持力を過度に期待せず、押し込み抵抗力を最小値として評価する方針です。
2.3 水平抵抗力
水平抵抗力とは、くい丸に対して水平方向から加わる力に対して抵抗する能力です。たとえば、フェンスや土留めなどの用途では、風圧や土圧により水平荷重が作用します。また、地震時には水平震度に基づいた力も加わるため、構造計算に基づいた検討が必要となる場合があります。
水平抵抗力に影響する主な要素としては、くい丸本体の強度(特に太さ)、根入れ長、そして地盤の強度が挙げられます。くい丸自体の「曲がりにくさ(曲げ剛性)」は材料特性に基づき、断面二次モーメントから算出されます。たとえば、外径42.7mmと48.6mmのくい丸では、肉厚が同一でも太さの違いにより、後者の方が約1.5倍の曲げ剛性を有します。
一方、根入れ長と水平抵抗力の関係については注意が必要です。一般的には、深く打ち込むほど抵抗力も高まるとのイメージがありますが、実験の結果によれば、1mと2mの根入れ長で水平抵抗力に顕著な差は見られませんでした。これは、地盤が抵抗する前に、くい丸本体(鋼管)が曲がってしまうことが主な要因と考えられます。
2.4 三種類の強度は相互に関連する
引き抜き抵抗力、押し込み抵抗力、水平抵抗力の3要素は、それぞれ独立しているようでいて、密接に関連しています。たとえば、引き抜き抵抗力の高いくい丸は、一般的に押し込み抵抗力も高い傾向があります。また、地盤の強度が高ければ、3種類すべての抵抗力も向上することが期待されます。
くい丸を選定する際は、設置予定地の地盤条件、設置物の構造や規模、さらに予想される荷重の種類・大きさを十分に考慮した上で、必要な強度を満たす仕様のものを選ぶことが重要です。
3. くい丸の鉛直支持力(引き抜き・押し込み)の目安
くい丸の支持力は、地盤の強度やくい丸の寸法(太さや根入れ長)など、複数の要因により大きく変動します。そのため、「このサイズのくい丸であればこの荷重に耐えられる」といった一律の基準を示すことはできません。とはいえ、何の目安もなければ検討が難しいと思うので、ここでは店長が長年の経験から得た支持力の目安をご紹介します。以下に示す数値はあくまでも目安、参考値としてご覧ください。
なお、前項までは「抵抗力」という用語を用いて説明してきましたが、本項では実感に近い表現として「支持力」という言葉を用いています。力に抵抗する力=構造物を支持する力であり、意味としては同一です。
くい丸の太さ | 根入れ長 (打ち込み深さ) |
軸方向の支持力の目安 | 水平方向の力に対する状態 | 強度のイメージ |
---|---|---|---|---|
φ48.6mm | 0.3m | 〜1kN | くい丸が転倒の恐れ |
・手で真っ直ぐ引っ張っても抜けない場合が多い |
φ48.6mm | 0.5m | 〜3kN | 地盤により転倒 | ・グリグリしても動かない ・上記より手ではまず抜けない ・ロッキージャッキなら抜けるケースがほとんど |
φ48.6mm | 1.0m | 5〜10kN | 転倒無し | ・水平に手で思い切り押してもビクともしない ・ロッキージャッキでも抜きづらい時が結構ある |
φ48.6mm | 1.5m | 10kN〜 | 転倒無し | ・重機持ってきて! |
【ご注意下さい】上記の数値はあくまでも目安であり、実際の支持力を把握するには現地での試験などによる確認が不可欠です。
【解説】
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軸方向の支持力とは、くい丸に対して鉛直方向(上方または下方)に作用する荷重に対抗する能力を指し、国際単位系(SI)に基づいてkN(キロニュートン)を単位とします。おおよそ1kNは100kgfに相当し(正確には約101.97kgf)、設計上の概算においては1kN≒100kgfと見なされることが一般的です。
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水平方向の荷重に関しては、作用位置や荷重の分布条件(集中荷重・分布荷重)により影響が大きく異なり、特にテコの原理によって支持力の変動が顕著となります。ここでは、地表付近における集中荷重を想定し、それに伴う「杭の転倒リスク」に焦点を当てて整理しています。
「2.2 押し込み抵抗力」で述べた通り、理論上は押し込み支持力が引き抜き支持力を上回る傾向にあり、実験結果においてもその傾向が確認されています。しかしながら、当店ではより保守的な設計指針として「押し込み支持力=引き抜き支持力」と仮定することを推奨しております。なお、押し込み試験は引抜試験に比べて大規模な試験機器を要するため、実務上は引抜試験による実測値や理論値を設計根拠とするのが現実的な対応といえます。
3.1 くい丸の支持力に影響を与える要因
くい丸の支持力に影響を与える要因は様々ですが、主に以下の3点が挙げられます。
・土質、地盤の強度
・くい丸のサイズ
・施工方法
詳しくは「くい丸の支持力に影響を与える要因とは?」で解説しています。
4. くい丸の強度が十分かどうかは「設計」で決まる
くい丸の強度が十分であるかどうかは、設置物を必要な期間、安全に支持できるかどうかという意味に等しく、単に「くい丸を打ち込めば良い」というものではありません。施工後の安心を高めるためには、事前の計画が大切です。
詳しくは「くい丸の強度が十分かどうかは『設計』で決まる」で解説しています。
5. くい丸の引き抜き強度の調べ方
くい丸の引き抜き強度は、実際に現地でくい丸を打ち込み、その引き抜き力を測定する試験によって確認されます。代表的な試験方法には、鉛直引抜試験および水平引張り試験の2種類があります。
試験方向 | 当店での試験対応 | 試験結果の種類 | 備考 |
---|---|---|---|
引抜試験(鉛直) | ○ | 極限支持力 | 太陽光発電やビニールハウス施工時に実施 |
押込試験(鉛直) | × | 極限支持力 | 大がかりな装置が必要 |
引張り試験(水平) | △ | 極限支持力 | 試験条件により対応可。斜め方向も実績あり |
引抜試験(斜め) | × | 極限支持力 | 大がかりな装置が必要 |
5.1 鉛直方向の現地試験
鉛直方向の試験では、くい丸を垂直に打設し、チェーンブロックやジャッキ等を用いて上方へ引き抜くことで、引抜強度を計測します。太陽光発電施設やビニールハウスのような恒久的・半恒久的な構造物で実施されることが多く、根入れ長を変えて複数の条件下で比較を行う場合もあります。
5.2 水平方向の現地試験/モデル試験
水平方向の試験では、くい丸に水平方向から力を加え、張力計によりその抵抗力を測定します。単体試験のほか、転落防止柵などの用途では実物大モデルを用いて試験を行う場合もあります。
7. くい丸の強度が不足するときの対処法
くい丸の支持力が不足する場合には、以下のような対策を講じることで対応することができます。
7.1 複合杭
鉛直方向に打ち込んだくい丸に対し、斜め方向にもくい丸を打設し、両者を緊結することで支持力を高める方法です。建設現場などで広く使用されている補強法の一つです。
7.2 根がらみ
異なる位置に設置した複数のくい丸を、単管パイプなどで連結して全体としての構造を強化する方法です。仮囲いの基礎などで多く見られる手法です。ただし、単管の強度を超える長さで連結すると効果が得られないため、適切な設計が求められます。
7.3 根巻き
くい丸の根元にコンクリートを巻いて、支持力を補う方法です。押し込み方向に有効で、底面積が増えることで安定性が向上します。一方、引抜き方向に対してはコンクリートの自重しか貢献せず、費用対効果が下がる傾向にあります。また、再利用性が低下する点も考慮が必要です。
7.4 地盤改良
地盤そのものの強度を高めることで、くい丸の支持力を向上させる方法です。くい丸はコンクリートには打ち込めませんが、セメント系の地盤改良材を用いた地盤には打ち込み可能な実績があります。強化された地盤には、エアーブレーカーや油圧式の杭打ち機などの強力な打設機器の使用が推奨されます。
9. くい丸の強度に関するよくある質問
くい丸の強度について、お客様からよくいただくご質問とその回答を以下にまとめました。
9.1 くい丸は1トン以上の荷重に耐えられる?
「くい丸は1トン以上の荷重に耐えられる」という表現は、条件によっては事実ですが、常に成り立つとは限りません。くい丸の支持力は、以下のような複数の要因によって大きく変動します。
- 地盤の強度
- くい丸のサイズ(外径、肉厚)
- 根入れ長(打ち込み深さ)
- 打設方法や施工条件
たとえば、軟弱地盤に短いくい丸を浅く打ち込んだ場合には、1トン未満の荷重でも変形や沈下が生じる可能性があります。一方で、良好な地盤に長いくい丸を深く打設した場合には、1トン以上の荷重にも耐えうるケースもあります。
ただし、ここでいう「1トン」とは、あくまで限界荷重(極限支持力)であり、実際の設計には適切な安全率を考慮することが必要です。前述の通り、安全率1.5〜2程度が一般的な目安とされています。
9.2 くい丸はどんな地面でも大きな支持力を発揮する?
くい丸は、比較的さまざまな地盤に対応できるという利点がありますが、すべての地盤で大きな支持力を発揮するわけではありません。特に以下のような地盤では注意が必要です。
- 軟弱地盤
- 水分の多い飽和地盤
- 腐植土や泥炭層などの特殊土
こうした地盤では、くい丸が十分な支持力や耐久力を発揮できない可能性があるため、必要に応じて地盤調査や補強工法の検討が推奨されます。
9.3 くい丸はどんな場合でもおすすめ?
基礎工法には、杭基礎やコンクリート基礎など多様な選択肢があります。くい丸はその一種であり、すべての状況において最善の選択となるとは限りません。
当店にご相談いただいたケースでも、現場の条件や設置物の特性を踏まえた結果、くい丸以外の基礎工法をご提案させていただく場合があります。
基礎工法の選定にあたっては、以下のような要素を総合的に検討する必要があります。
- 設置物の構造および荷重条件
- 地盤の強度・性状
- 施工環境および周辺条件
- 関連法令や建築基準
法令を遵守したうえで、安全性と施工性、コストパフォーマンスのバランスを考慮し、最適な基礎工法をお選びください。
11. まとめ
くい丸を選ぶということは、基礎を考えるということでもあります。
基礎を考える上でまず理解していただきたいのは、「設置物があって基礎がある」という原則です。
つまり設置物の大きさや、それにどのような力がかかるのかに応じて適切な支持力の基礎を作らなければならないということです。
くい丸は手軽に施工でき、かつ優れた支持力を発揮する基礎工法ですが、いつどんな時でもくい丸だけが唯一の正解というわけではありません。くい丸専門店クイックスでは、専門スタッフが豊富な経験にもとづいて、あなたの「作りたい!」を応援します。ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。
【免責事項】
・本記事で示されている数値はあくまで目安又は一例であり、お客様がこれに基づいて設計、施工されたことにより発生したいかなる損害についても当店では責任を負いかねます。
・設計、施工においては、お客様ご自身で妥当性を確認して下さい。
・設置物によっては、法令による制限がある場合があります。お客様ご自身で確認して下さい。